断章 二 そして眠りへと誘う太陽

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*  発明家。  デネブと名乗ったその女性は、自身の職についてそう語った。なんでも、彼女の真在能力(イデアス)は「別の次元にある世界」を覗き見ることができる能力であるらしくーー彼女はそこで見たものを、この「冥府」に再現するのが趣味であるそうだ。  壊れた壁の中に招かれた「彼」は、ごちゃごちゃと物が置かれた部屋の中を見渡す。そこには、ガラクタにしか見えない石の塊や、何に使うかわからないような四角い器具が並んでいた。 「おお、それが気になるとはお目が高い!」  ふざけたような口調で、デネブは「彼」にそう語った。意気揚々と、その器具の下に取り付けられた丸い窪みの中心を押す。  すると、その器具の側面のうち、こちらを向いていた箇所に、とつぜん海のような情景が映し出された。「彼」はびっくりしたように仰け反ったあと、おそるおそるといった調子でその器具を触る。しかし、冷たい石のような感触が指に伝わるだけで、それが何であるのかは分からなかった。 「驚いた?それは『テレビ』っていうんだよ」 「てれび……?」 「『あっち』の世界にはね、こんなおもしろいものがたくさんあるの。……いや、『テレビ』の仕組み自体もおもしろいけど、もっと興味深いのは、その内容よ。これを見て!」  早口でまくしたてたあと、彼女はもう一度丸い窪みの中心を押した。すると、見たこともないような絵がそこに映し出されーーあろうことか、その絵が動き始めたのだ。 「これが『アニメ』よ。――電波をこっちの世界に引っ張ってくるのに、めちゃくちゃ苦労したんだから」 「……よく分からない、です」 「ええーっ!? 『地獄戦機アポカリプス』の良さが分からない!? そりゃきみ、人生損してるよ!」  もはや煩わしいほどの高音で、彼女は興奮したようにその器具に映された動く絵を指差す。 「この主人公のライバルの妹の友達のお父さんの取引先の社長の息子の同級生、『西園寺真斗(さいおんじまさと)』くんはすっごくいいキャラなの!闇の力を制御するために出家したはいいものの、剃っても剃っても生えてくる髪の毛に手こずり、ついには毛根を焼き尽くす煉獄の炎の力を得るために、聖カトリーヌ協会の本拠地にーーーー」 「いや、興味ないです」  長々と語る彼女の言葉を遮るように、「彼」はそう言った。  熱弁をばっさりと切り捨てられて、デネブは激しく肩を落とす。
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