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それからしばらくして、少女の足がようやく止まったときには、京の体力はほぼ限界に達していた。
「ぜえ、ぜえ……。ここまで来れば大丈夫、か?2時間くらい走ったんじゃないか……」
「なに言ってるの、せいぜい10分ぐらいじゃない。……キミ、大丈夫?さっきから、すごく顔色が悪いけど」
「え?そうか?……確かに、体が重い感じはするな」
「目の下のクマとか、ひどいよ。この世界じゃ寝てなくてもそんなことにはならないから、もともとなのかもしれないけど」
栗色の髪の少女は、心配そうな目で京を見つめる。その眼差しに、京は少し顔を赤くしてたじろいでしまうがーーなんとか平静を装って、周囲を見回す。
二人がたどり着いたのは、不思議な曲線を描く大きな建物の間、路地裏のような場所だった。二人のほかに、人やモノの気配はない。辺りに危険がないかを探りながら、少女が口を開いた。
「なにから説明すればいいかな……。とりあえず、自己紹介から、か。
私は鳴滝 厘。厘って呼んで」
少し緊張が解れた様子で、少女はそう名乗り出る。続いて、京も自己紹介をした。
「俺は嵐山 京だ。君の言う通り、さっきこの世界に来たばっかりだよ」
「やっぱり、そうなんだ。……その言い方だと、薄々は感じてるみたいね。ここが、現実じゃないってこと」
星空の光が、二人を照らす。世界は、再び静寂に包まれる。
「死後の世界……だろ」
重々しい口調で、少年が口を開く。厘はその言葉に少し驚いたような表情を見せてから、言葉を返す。
「やけに飲み込みがはやいじゃない。私だって、二か月前に来たときには、しばらくは信じられなかったわ。だって……私は死んだはずで、こうやって自由に手足を動かせるはずがないもの」
「俺は……」
そこで少年は言葉を止め、少女のほうを見る。
「俺は、知りたいんだ。この世界のことを。教えてくれないか、厘……さん」
「厘でいいわ。……言われなくても、教えるわよ。そうしないと、あなたはすぐに死んでしまうでしょうから」
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