厘という少女

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厘という少女

「危ない!」  誰かに横から突き飛ばされ、京は勢いよく転倒した。青いタイルが敷き詰められた道に転がる。視界には、群青に光る満点の星空。  考え事をしているうちに、周りが見えなくなっていたようだ。はっとして、自分を突き飛ばした人物を見る。    長い栗色の髪を後ろで束ね、腰を低くして何かの構えをとっている少女。その手には、夕焼けで染めたかのような紅い槍が握られていた。凛とした佇まいからは、芯の強さが見て取れる。  一瞬、その少女に姉の姿が重なった。顔も、声も、背格好も違うはずなのに、雰囲気が同じだ。ーー強く、優しく、美しい人。 「どうしたの?キミもはやく『十六能力イザヨイ』を使って戦いなさい!」 「い、いざよい?」  困惑しながらも、少女が睨みつける先を見る。  ーーそこには、ダイヤモンドの塊を人型に荒く削り取ったかのような、淡く輝く物体が置かれていた。……いや、置かれているのではない。それはまるで意思を持っているかのように、二人のほうに向かって歩いてきているのだ。生物でもロボットでもない、謎の存在。まるで海外の美術館に展示されている芸術品アートに命が吹き込まれたかのように、奇妙な物体は手足を動かして前へと進む。 「な、なんだよアレ……!」  京は恐怖のあまり固まる。鉛を飲んだかのように体が重く、声が出せない。 「まさかキミ、ここ・・に来たばっかりなの!?」  槍を持った少女が驚きの声をあげる。それと同時に、彼女は京の襟首を掴んで走りはじめた。  ーーすごい力だ。  謎の怪物がどんどん遠く、小さくなっていく。このままいけば、簡単に逃げられそうだ。幸い、怪物の足はそれほど速くない。  ……だが。  ナイフのような感触が、京の太腿をかすめる。それと同時に横の建物に突き刺さったのは、半透明な石の破片。  謎の怪物のほうを見るとーーそいつは、投擲をするような姿勢で固まっていた。自分の体を構成する物質を石器のような形の破片として射出し、二人の足を止めようとしたのだ。  京に悪寒が走る。……もしかすると、さっきはこの攻撃から自分を守ろうとして、この少女が助けてくれたのだろうか。 「自分で走って!」  そこで、ようやく少女の手が京から離れた。青いタイルが敷き詰められた道に足を落とすと、なにがなにやら分からないまま、少女に続くように走りはじめた。
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