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その晩、ケノザはいたたまれなくなって、神のもとをたずねました。
「なぜあのように、未来のある若者を、踏みつぶそうとするのですか」
かつての自分が人々の足の下敷きになって、茎が折られ、葉が破られていたようすとレオナールの姿が重なりました。
「こころざし半ばに道を閉ざされた者がいると、愁いに富んだ世界が出来上がるからだ」
神はいくどかうなずき、うっすらとした笑みを、ほほに貼りつけました。
「そのほうが、おもしろい芝居のようで、見物のしごたえがあろう」
「そんな。人間は神の遊び道具ではありません」
うす笑いを消さない神に、ケノザは声を荒げました。
人間界にもどったケノザは、ベッドでひざをかかえたまま眠れませんでした。
わたしにやさしい目をむけるほど、レオナールからは幸せが遠のいていく。
どんな良い絵を描いても、決して認められることもないでしょう。
なんの取り得もない雑草だったわたしを、天使だと称えてくれているのに、わたしは災いをもたらすだけ。
どうすればいいのかしら。
神になれると聞いたとき、舞い上がるような喜びに満たされたことが、遠い昔のようでした。
重く苦しい時が過ぎ、東の空が白んだころ、ケノザは決心をしました。
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