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三週間かけてできあがったのは、遠くを見つめる横顔でした。
生きる力を秘めた花が、太陽にむかってまっすぐに伸びていくかのような、素直な面差しです。
「これが、わたし……」
ケノザは、くちびるをかすかに開いたまま、言葉を続けることができませんでした。
「おかしかったかな?」
レオナールは小声で首をかしげます。
「とんでもない。あんまりにきれいだったので」
「ケノザはきれいだし、とってもかわいいんだよ」
レオナールの裏も表もないもの言いに、ケノザの鼓動がはやくなります。
「誰もが見入る派手で大きな花ではないけれど、見る人がそっと笑みをうかべる健気で小さな花のようだ」
「小さな花」と息だけでつぶやいたケノザは、名もない草だったころのことが頭によみがえりました。
春先のほんの短いあいだ、精いっぱいの力で花を咲かせたときの気持ちを。
「この絵が売れれば、パンだけの食事ともおわかれだ。楽しみにしていて」
出来上がった絵を丁寧に布でくるんで、レオナールは出ていきました。
一人部屋に残ったケノザは、花を咲かせた自分の気持ちをわかってくれた青年のために祈りました。
絵が少しでも高く売れますように。
自分が貧乏神であることも忘れて、頭を垂れ、願い続けました。
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