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 いくにち経っても現れないひげの画家を待っているうちに、お金はすっかりなくなってしまいました。  ケノザのほほ笑みを描くことで、絵具をすっかり使いきってしまい、新しい絵に取り組むこともできません。  わずかに残った炭の棒をにぎるレオナールの手からは、かつての厚みはうすれ、すっかりと弱々しいものにかわりはてていました。  おなかをすかせたレオナールは、ケノザを誘って近くの公園に野草を摘みに出かけました。  もとは草の精だったケノザにとって、食べることのできる野草を見つけるのは、簡単でした。公園の中をせっせと歩き回り、手にしたかごに、ひとつ、またひとつとつややかな葉を入れていきます。  レオナールは、じっとしゃがんだままでした。  絵をだましとられたことを気に病んでいるのかと、ケノザは心配しました。  遠くから丸めた背をながめるケノザに、レオナールは「こっちにきてごらん」と、明るい声で手招きをしました。 「ほら。ここにサンガイグサがある」  おだやかに目をほそめて、緑の葉を指さします。 「小さくてかわいらしい花をつけるんだよ。まるでケノザみたいで、奥ゆかしい花なんだ」  やせた手で、やさしく葉をなでるレオナールを見ていると、ケノザはまだ名もない草だったころ、たった一度だけ、人とぬくもりに満ちた時間を過ごしたことを思い出しました。もう、何年も前のことです。
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