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 スケッチブックをかかえた少年が、熱心にケノザを写しとったのです。  春のとある一日。  空の高いところにあった陽が、山のかげにかくれてしまう間際まで、少年はずっとケノザにつきっきりでした。  そして一日の終わりに、「ありがとう」とほほ笑みながら、花をつけたケノザにキスをした。  わたしはあのとき、初めて花として人間に()でてもらうことができた。  あの子は、ささやかな花を咲かせたわたしのことを、やさしく見つめてくれた。あのやわらかな青い瞳。  青い瞳……。  まさか。  ケノザの首すじからほほへと、しびれがはい上がりました。  もしかしたら、いえ、きっとあれはレオナールだったのだわ。    息をのむ少女のわきで、青年はしゃがんだまま、か細い声を落としました。 「せっかく幸運の天使がそばにいるのに、どうして上手くいかないんだろう。ぼくには才能がないのかもしれない」
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