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一人残されたレオナールは、身のまわりのものをすべて売り、絵具を買い、キャンバスを用意しました。
それからの一週間、眠りもせずに一枚の絵にあらゆる想いを注ぎこみました。
自分にひどい言葉を投げつけたケノザへの怒り。突然に大切な人がいなくなってしまった悲しみ。そして、気持ちの片隅に残る、あたたかなもの。
あふれ出る感情を強い力で封じこめたケノザの絵は、観る者をひきこんで、心を大きくゆらすのでした。
キャンバスの中から強い視線をさしこむ少女。
その目は、きつく険しいものでした。
しかし、深い悲しみと抑えようのない愛情を、にじませてもいたのです。
絵の評判は人の口から口へと伝わり、レオナールの名は高まりました。若い画家のもとには絵の注文が、次々に舞いこむようになったのでした。
世に広く知られてからも、レオナールはケノザといっしょに暮らした部屋に住み続けています。
天気のよい春の日は公園で腰を下ろし、淡い紫の小さな花を、じっと見つめるのでした。
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