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 神になりたい精霊はたくさんいるのですが、望みの叶うものは、まずいません。  運のよいものにだけ、神の気まぐれが降りかかり、神の座が用意されます。  何百万に一つ、いえ、何千万に一つの機会です。  自分がその幸運を授かったのだと知ったケノザは、とび上がって喜びました。  今まで、人間に踏みつけにされてきた自分が、神に生まれかわる。  そう思うと、名もない雑草の精であったケノザは、顔じゅうにわき出る笑みを止めることができませんでした。    ケノザは神の前にひざまずき、顔をふせました。これからどのような神になるか、告げられるのです。 「貧乏神を命じる」  ケノザの瞳はたちまち明るい光で満たされました。神の前でなければ、躍り上がっていたでしょう。  自分を邪険にあつかい、足蹴にしてきた人間どもを、不幸にすることができるのですから。 「とりつくのは、この男だ」  神が指先で空中に円を描くと、石畳を歩く青年が映し出されました。  どこにでもいる若者です。布でつつんだ四角い荷物を小脇にかかえています。  服にはところどころにかすれた汚れがつき、ズボンのすそはほつれ、靴も傷だらけ。ほほは炭のかすで、くすんでいました。  すでに、貧乏なのではないかと思えるほどに、質素な身なりです。しかし、青い目には生き生きとした深い輝きを宿しているのでした。 「おまえの力で、この者は貧しくなる。少しでも早く、絶望の底に落とすのだ」 「かしこまりました」 「わかっておるだろうが、神の世界で最も低い(くらい)であるおまえは、使命を果たすことができなければ、この世から消えてなくなる」 「わたしを靴の底で痛めつけてきた人間相手に、しくじることはありません。いままでの悔しさを、晴らして参ります」  こうして、ケノザは人間界に舞い降りることになったのでした。
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