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「すみませんが、食べるものをわけてもらえませんか」
包みをかかえた男の前で、少女が頭を下げました。
姿を変えたケノザです。
「いま、持ち合わせがないんだけど、これを届ければ、いくらかにはなるから」
布でくるんだ荷物を片手で持ち上げて、若者は少し顔を赤らめました。
それは、少女があまりにもいじらしかったからです。
年ごろの娘が、知らない男に食べ物をねだるとは、どれほどに恥ずかしかったろうか。
そして、申し訳なさそうにおじぎをする仕草のなんと愛らしいことか。
少女のことを気の毒に思いながらも、胸の奥があたたかくなるのでした。
しばらく歩くと、若者は石段に足をかけて立ち止まりました。
「ここで待っていて。すぐにもどってくるから」
軽い足どりで石段を上がり、扉の中に消えていきました。
待つほどもなく戸の開く音がして、顔には笑みを、手の平には銀貨をのせて、少女のもとにかけよりました。
「これでパンが買えるよ。いっしょに部屋で食べよう」
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