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ケノザが案内された部屋は、買い物をしたパン屋の倉庫の二階でした。
石造りの壁に板張りの床。
思いのほか、広さがありました。
片すみにベッド、真ん中には四角いテーブルが据えられています。
そしてその上には、いくつかのチューブ、色のまぜこぜになったパレット、細い炭の棒、何本もの筆をさした筒が置かれていました。
机の上をざっと整理して、二人でパンをほおばります。
「さっきは、ぼくの描いた絵を買ってもらったんだよ」
「絵描きさんなのですか?」
「まだまだ、新米だけどね。ぼくはレオナール」
「わたしはケノザ。この町で、旅芸人の一座とはぐれてしまいました」
レオナールは目の前の少女が迷子になったのではなく、一座から逃げ出したのだと思いました。
ろくに休憩も食べ物も与えずに、芸人をこき使うのはよく聞く話です。
きっと、ケノザもひどい目にあっていたに違いない。
その証拠に、おなかをすかせて、すがるような目でお願いをしたじゃないか。
まだ、一座が探し回っているはずだ。ほとぼりが冷めるまで、かくまってあげよう、とも考えました。
「ケノザさえ良ければ、しばらくここにいたらどうだろう」
「ご迷惑になりませんか」
「大丈夫だよ。ただ、見ての通り、なんにもない貧乏暮らしだけどね」
ケノザは心の中で笑いました。
もし、この笑みが顔にうかんだなら、くちびるのはしを上げた、さげすむような表情になっていたことでしょう。
これから、あなたはもっともっと貧しくなるのよ。
自分から貧乏神を招き入れるとは、なんとおろかな男かしら。
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