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夏になると果樹園を営む実家から、段ボールいっぱいの桃が届く。
一つ一つ丁寧に育てられた、丸くて重みのある愛しい果物。
ふわーっと甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
こんなにたくさん、とても一人では食べきれない。
かと言って、お裾分けする知り合いも居ない。
就職を機に地元を離れ、早5年。
なりたい自分になれず、何者でもない自分と葛藤しながらただ日々を過ごす。
大切に育てられた桃。
私もそんな風に育てられたのだろうか。
そんなことを考えながら、余った桃をひたすら煮詰める。
ーーあんたが送ってくれたジャム、お父さん気に入ったみたいよ。
朝はご飯とみそ汁って言ってたのにねぇ。
電話越しの母の嬉しそうな声。
トーストした食パンに、たっぷりと桃ジャムを乗せる。
甘くて柔らかくて、素朴な食パンがご馳走になる。
父もこんな風に食べているのだろうか。
無口だけど満足そうに、食パンを頬張る父の姿が浮かんだ。
パン言葉:親の想い
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