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「そんなこと、あたし知らない!」
リリアナはティーカップの置かれたテーブルを、怒り任せにバンッと両手のひらで叩きつけた。
その衝撃でカップが飛び跳ね、中身が零れ落ちる。
「静かにして下さい。今外にはあなたを連れに来た人たちがいるんですよ」
リリアナの前に静かに座っていたゲーリは、声を張り上げた彼女を制した。
ぐっと言葉を飲み込み、口を噤んだリリアナは閉めてある窓のカーテンから、そっと外の様子を窺ってみる。
村の人々に何か話を聞いて回る王国騎士の姿が三人。うち、一人は他の二人よりも地位が高いのか立派な軍服を着込んだ女性だった。
少しだけ持ち上げていたカーテンを下ろし、深いため息を吐く。
それは、突然の事だった。
あまりにも突然すぎるその出来事に、リリアナの今後の人生が今とそっくり変わってしまうなど、ごく一部の人間を除いては誰も知らなかった。
突きつけられた真実に、これまで築き上げてきた物が一瞬で砕け散る音を耳にした。そして、もう二度と今までのような生活には戻れないという事も……。
「リリアナ……。落ち着いて話を聞いて下さい」
「こんな話を、普通落ち着いて聞いていられる!?」
怒りに顔を紅潮させているリリアナだったが、しかしその表情はどこか泣き出しそうだった。
「ゲーリは良く平気でいられたよね! あたしがお父さんやお母さんやゲーリと血の繋がった、本当の家族じゃないって分かってたのに……っ!」
血の繋がった……。
そこで思わず溢れ出そうになった涙を飲み込むように言葉を詰まらせる。
もう駄目だ。次に何かを喋れば、ギリギリまで出掛かっている涙が零れ落ちてしまいそうだ。
堪える為にぎゅっと唇を噛んで、涙の溜まり始めた眼差しでゲーリを睨みつける。
締め切った窓の外に、リリアナを連れ戻しに来た人物がいると思うと、ゲーリの心は酷く掻き乱され動揺してしまいそうになる。
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