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ゲーリはリリアナを真剣な表情で見つめ、やがてどうしようもないとばかりに深いため息を吐きながら顔を俯かせた。
「……平気なわけ、ないじゃないですか」
喉の奥から搾り出すようにそう呟きながら、それまで膝の上に置かれていた手が硬い拳を作る。
「あなたとはもう17年も同じ屋根の下で暮らしてきました。いずれは離れ離れになる事が分かっていても、あなたは私の……」
ゲーリはそこまで言うとゆっくりと顔をもたげた。そして自分のすぐ傍らには、今にも泣き出しそうなリリアナの姿がある。その姿を見ていると衝動的に手が伸びて彼女の腕を掴み、自分の方へ引き寄せた。
突然、ゲーリの胸に収まったリリアナは驚いたように目を瞬く。
「……っ」
「ゲーリ……?」
リリアナが声を掛けると、抱きしめる腕に力が篭る。
ゲーリはリリアナの肩口に額を押し付けたまま、じっと何かに耐えていた。
「……いつかこうなる事は分かっていました。だからこそあなたと過ごした17年の歳月が尊く、そして大切です。同時に、とても……怖かった」
「ゲーリ……」
これまで溜め込んでいた胸の内をボソボソと吐露し始めたゲーリの肩に、リリアナはそっと手を置いて静かに聞いていた。
「怖かったんです。あなたが、私の元から去っていく事が……」
そこでゲーリはようやく頭をもたげると、まっすぐにリリアナを見つめた。
時が瞬間的に止まったかのように二人はじっと見詰め合う。
長い間溜めていた想いを吐き出してしまうべきか、止めるべきか……。
ゲーリは、リリアナがいなくなる事にただ焦りだけを感じて、前者を選んでしまう。
「……私は、あなたを愛しています。家族としてじゃなく、一人の……」
「!?」
リリアナは胸の奥がぎゅっと掴まれるような感覚と同時にヒヤリとしたものを覚えた。
家族としてじゃない? じゃあ何だというのだろう? 一人の……?
そう思った瞬間ゲーリの手が頬に伸び、ゆっくりと顔が近づいてくる。
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