4.君のいる夏

2/2
前へ
/15ページ
次へ
 ダブルレインボー。二本の虹。虹。虹色鉛筆。  ねえ、君が転校する時にクラスのみんなに渡すプレゼント、虹色鉛筆がいいって真っ先に言ったのは私なんだ。  君は覚えてないけど、転校前の最終日にくれたプレゼント、虹色鉛筆が入ってて感動したんだ。  覚えてくれてたんだって思って嬉しかったんだ。  だから虹色鉛筆は九年経った今でも筆箱の底に眠っている。  使えないまま、ずっと。  お守りみたいに持ち歩いたまま、ずっと。  ありがとう好きでしたって伝えられないまま、ずっと。  多分これからも筆箱の底に眠ったままにすると思う。  長い間入れたままだったから、いなくなったらきっとなんだか物足りないしそこにないのが気持ち悪くなる気がする。  気持ちを伝えられないまま偶然全く違う場所で再会して、  でも恋愛小説とか漫画みたいに実は両思いでしたなんて展開もあるわけなくて、  そんなのありっこないって分かりつつも期待なんかしちゃって。    初恋の終止符が『覚えてもらえてすらいなかった』なんて形で九年越しに打たれるとは思ってもみなかった。  でも、九年越しに違う場所で会えたこと自体が、その上こうして連絡をくれること自体が奇跡みたいなもので。  ダブルレインボーができるよりも、それはきっと奇跡だ。 『日曜オフって前言ってたけど、今日暇? 俺らもオフだしこれから晴れるらしいからこの前のメンツで江の島行こうって』  きっと私が本当の気持ちを口にしたら、この関係は崩れるかもしれない。  今はこの関係で、気持ちを伝えられなくてもいいから君のそばにいたい。  だから走って行くよ、一緒にどこにでも。 『行く!』  今日も会えるし、きっとこれから夏休みの間に練習するサッカー部と学校ですれ違えるかもしれない。  学校で練習している様子が見られるかもしれない。  学校でも日常でも、河野くんがどこかにいる。話しかけてくれる。  物語みたいなミラクルが起こらなくたって、それだけで今は十分かもしれない。  君がいる夏休みはまだ、始まったばかりだ。   Fin.
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

69人が本棚に入れています
本棚に追加