69人が本棚に入れています
本棚に追加
ああ、そういうことだったんだ。
「見覚えあると思って」と言ったのはきっと、『SNS上で見覚えがあって』、ということで。
私の顔を見てこいつ昔会ったことある、ああ小学校のあの子か、って気づいてくれたわけじゃない。
私のことを覚えていたわけじゃない。
見覚えある。
そう言われた瞬間、うん私もすぐ分かった、あれから何度も写真を見返したあの顔だ、変わってないね。そう思ってしまった自分が恥ずかしい。
「凄く楽しそうに昔の思い出話してくれるから、俺も話せないままズルズルきちゃって。でも嘘つくみたいで嫌だったから、ちゃんと話さなきゃって」
こんな話の間にも、背景では夜空に浮かぶ光の花とそれを追いかける音のやり取りが繰り返されていく。
光も音も、全部が水の中みたいにくぐもっていく。
「仲良かった男子は覚えてるけど、女子全然覚えてなくて……」
ごめん、と彼が呟く。その姿に胸の奥がきしむ。
覚えていなくても無理はない。
だって私にとって彼はたった一人の、好きだった男の子で、私たちにとってはたった一人の転出してしまうクラスメイトで。
対して私は、転校する前のクラスにいたという事実だけの、何とも思われていなかった只のクラスメイトの一人にすぎない。
ワンオブゼム。大勢の中の一人。
しかも小二の出来事だ。はっきり覚えていない方が普通かもしれない。
それでもやっぱり、忘れられていたという事実が胸のあたりをじりじりと焦がす。
胸の奥にレモンを放り込んだような味が広がっていく。
何でその可能性を全く考えなかったんだろう、私。身の程知らずにも程がある。
最初から勝手に期待なんてしなければ、こんな痛い思いをすることもなかったのに。
最初のコメントを投稿しよう!