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「いいの全然、覚えてない方が普通だって、小二だし。私も転校前のクラス、はっきり覚えてない人沢山いるもん」
全然良くなんかないけど、
本当は覚えてたって言ってほしかったけど、
今九年越しに隣で花火を見れる状況にあるって方が奇跡だ。
そう自分に言い聞かせながら花火を見上げる。
ほら花火綺麗だよ見ないと損だよ、夜空を指さしても河野くんの顔は晴れない。
「俺さ、せっかくまた会えたんだし、岸さんと今度はちゃんと友達になりたい」
友達、と口の中で言葉を転がしてみる。『友達』の響きがこんなにも嬉しくなかったのは、人生で初かもしれない。
恋愛対象ですらないと突き付けられているみたいだ。
「気分悪くさせたらごめん。でも俺本当にそう思ってる」
心配そうな顔で河野くんが顔を覗き込む。ああ、気を使わせてる。そう思ってまた胸がちくりと痛んだ。
「今度は絶対、忘れない」
約束。彼が右手の小指を出す。指切りをしようとしているのだと気づいて、私も慌てて右手の小指を出す。
「また遊ぼうな」
「うん」
小指同士が折り重なった瞬間、汗ばんだ小指から手のひらに電流がびりっと走った気がした。
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