69人が本棚に入れています
本棚に追加
「岸さんも東京に引っ越してたんだね、俺の転校後」
「うん、どこに引っ越したのかも知らなかったからまさか会えるなんて」
「俺もびっくりした。SNSに載ってる岸さんの制服の写真、それっぽいなとは思ってたけど本当に同じ高校だったなんてさ」
私変な表情してなかったかな、と耳が熱くなる。こっちのことを気にしてくれていたのが嬉しい。これは夢じゃないだろうかとこっそり頬をつねる。
大丈夫、夢じゃない。
じゃあ俺C組だからこっち。そうなんだ、またねと手を振って私はA組の教室に入った。
「岸さん、河野と友達なの?」
ドアを潜ったところで後ろから急につつかれ、私は文字通り飛び上がった。
「岩瀬さん! え、なんで」
「さっき一緒に歩いてたから」
同じクラスの岩瀬さんはダンス部で華やかなグループに属していて、私とはつるむ層が違う。普段必要以上に関わらないグループのかわいい子から、雑談で声をかけられることなんて滅多にない。
「私の幼馴染の親友なんだ」
こいつの、と岩瀬さんが後ろにいる長身の茶髪くんを指さす。
「え、藤井くんの」
藤井孝輔はサッカー部の中でもずば抜けて目立つ方で、この隣によく河野くんがいると思うとしっくりくる。私は深く納得した。
「何繋がり?」
これが多分、藤井くんと喋った初めての瞬間だ。
昔同級生だった繋がりと経過を話すと二人とも目を丸くした。
「うっそそんなことあるんだ!」
「すげえな、まじでドラマとかにありそうな展開」
凄い凄いと言いながら、私たちは河野くん話で盛り上がった。
昔の記憶の中の河野くんと、今の河野くん。
もしかしたら変わってたりするんだろうななんて思いながら話を聞いてみると、どうやらあんまり変わってないらしいことだけはよく分かった。
誰にでもフレンドリーでサッカー一筋少年。部のレギュラーから一度も外れたことがないらしい。
でもやっぱり九年間の空白は大きい。この人たちは最近の河野くんを知っている。私は知らない。当たり前のことだけど大きな壁を感じて、私は勝手に少し寂しくなった。
最初のコメントを投稿しよう!