2.学校で

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 九年前、私たちがまだ東京に来る前。私の朧げな記憶の中で一番はっきりしている思い出。 「俺転校するからさ、みんなに渡すプレゼント考えてるんだけど何か欲しいものねえ?」 「ゲームソフト」 「サッカーボール」  無茶言うなよ文房具とかにしろよ、でも鉛筆とかだと味気なさすぎだよなあ、男子陣の中心で河野くんはぶつくさ言っていた。    その傍をちょうど女子何人かで通りかかっていた私は思い切って声をかけたのだ。 「虹色の鉛筆とかは?」  ただの鉛筆じゃだめならさ、と私が呟くと女子陣がぱっと私を振り返った。 「あ、それ最近流行ってるやつだよね私も欲しい」うんそれ欲しい、なかなか自分じゃ買わないしとみんなが口々に賛同する。 「そんなのあんだ」  へえ、と河野くんが顔を上げる。サンキュ、と言い残してまた男性陣の会話に戻っていく彼を、私は胸を高鳴らせて見つめた。    その時のことは、今でもよく覚えている。
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