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1.再会
『もしかして、俺の目の前に座ってる?』
五月、差し込む日差しが眩しい朝の通学電車。
ちょうど電車が三鷹駅を通過した頃に制服のスカートのポケットで携帯が震え、私は画面を開く。
メッセージはSNSのショートメッセージ機能を使ったものから来ていた。
差出人は『河野文哉』。
その名前が視界に飛び込んできた瞬間、周りの音が止まった気がした。
震える手で相手のアイコンをタップすると、サッカーのユニフォームを着ている男子の写真が画面に表示される。
まさか。
恐る恐る顔を上げると、向かい側の座席に座っていた男子と目が合った。
顔に見覚えがありすぎる。
記憶の中の面影がある。
まさか、そんな偶然ってあり得るんだろうか。
彼は右手を振ってにやりと笑い、席を立った。
「え、あの」
周りの目線と、車窓から滲み出る眩しい日の光に溶け込む彼の笑顔を交互に見ながら、私もつられて腰を上げる。いいよ座ったままで、とジェスチャーされ、私は座ったまま彼を見上げる形になった。
無造作な黒髪のくせに整った顔のせいで何でも様になって見える彼を、私は絶句してただ見つめた。凡人の私にはどうやっているのか全く分からないけど、ありきたりなダサい制服さえも格好よく着こなしている彼。
やっぱり見覚えがある。
驚きと嬉しさと戸惑いの波が一気に押し寄せて、私は視線を泳がせた。
「どっかで見覚えあるなって思って。何年ぶり?」
彼の言葉に、慌てて私は頭の中で彼と最後に会った時間まで遡る。
「九年ぶりかな」
「うわ、もうそんなに経つんだ。懐かしいな、愛媛」
そんなに経つんだね、ほんとに。しかも同じ高校の制服を着てるなんて。
彼は小学校二年生のとき愛媛から転校していってしまった、私の初恋の男の子だった。
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