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3.言えなかったこと
「岸さんいたいた!」
夏休みに入った直後の夏祭りの夜。待ち合わせ場所で、三人は私を見つけて駆け寄ってきてくれた。
「あのさ、岩瀬がたこ焼き食いたいらしいんだけど花火も場所取りしなきゃじゃん。
二手に分かれて岩瀬と孝輔がたこ焼き組、俺と岸さんで場所取り組ってのはどう?」
「私岸さんとたくさん話したいのに」
「いや岸さん疲れちゃうから、ここは幼馴染こき使え」
「おい」
こき使えと言われた藤井くんが、河野くんの肩を軽くチョップする。
「それもそっか、岸さんに申し訳ないしね。後で話そ!」
「俺をこき使う発言否定しろよ!」
藤井くんの叫びも虚しく、じゃあそういうことで、といつの間にか私は河野くんと場所取りに行くことになった。
「孝輔って岩瀬のこと好きなんだよ。だから機会作ってやろうと思って。ごめんないきなり」
「そうなんだ」
ちょっとほっとした自分がいる。
実は河野くんは岩瀬さんのことが好きだけど二人っきりで誘えないから私もついでに、みたいな展開を少し予想していたからだ。それ通りにならなくてよかった。
頑張れ藤井くん。
「……あと、ずっと言わなきゃって思ってたんだけど、ちゃんと話さないといけないことがあって」
彼の目線が泳いで下を向いた。少しの沈黙の時間が横切る。その視線の動きに、なんだか胸が暗くざわついた。
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