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 イトノは使徒になって日が浅い訳ではない。それ以上の説明はなくても言いたいことは伝わった。前を向き直り、歩みを再開させた。  使徒は悪魔を狩らずに一定時間以上経つと「白い樹」になる。「樹化」と呼ばれる現象だ。  樹化した使徒は、極限の苦痛に苦しみながら、この世に縛られ続けると言われていた。  死以上に怖ろしいもの――。  それが使徒たちにおける「樹化」の共通認識だった。  樹化が始まるまでの時間には個人差があり、丸々二~三年戦わなくても樹化しない使徒もいれば、一年も経たずに樹化し始める者もいる。  だが、この「樹化」という「最悪の終わり」がある故に、使徒は戦い続けなければならなかった。 「てかよぉ、最近、悪魔多いよな。昔は一年に一体出るかどうかだったのによ」  ビルの階段を上るイトノの背に、カズサが愚痴をこぼす。 「集中できないので、余計な話はしないでください」 「チッ」  カズサが舌打ちしたところで、イトノが最上階となる二十五階に到着。  二人が階段を登り切ったその場所は、肉の塊のような巨大な悪魔が陣取っていた。  見上げるほど大きな悪魔は、虫のような羽根をバタつかせている。  胴の前面には人間のような手が六本くっつき、巨大な眼はギョロギョロと忙しなく動く。  その外見から、双眼鏡で確認した悪魔ダンタリオンでないことは明らかだった。     
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