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カズサは表情に苛立ちを浮かべ、華奢な背中を追う。
生意気な新人――「文原(ふみばら)イトノ」は駆け出し、トンネルを出て宙を舞った。
トンネルの先――。
崩れた家屋の上に立ち、咆哮を上げる巨大な異形――「悪魔」に向け、イトノの斬撃が弧を描いた。
同時に悪魔の胴が切り離され、アスファルトに叩きつけられる。
「任務……完了」
イトノは手元の斧を消すと、それだけ告げ、またもカズサの横を素通りしようとした。
「ちょっと待てよ」
肩を掴まれたイトノが、ようやく歩みを止める。
「何ですか?」
イトノはカズサより二十センチ以上背が低いが、怖じ気づいている気配は微塵もない。
鋭く光る眼光が、カズサを睨み続ける。
「倒せたからいいじゃないですか。何もできなかった無能な先輩」
「てめぇ。上官に向かってその口の利き方は……」
最後まで言い終わる前に、イトノは肩にかかった手を振り払い、去って行った。
トンネルに一人取り残されたカズサは、左手で額を覆いながら、握った右の拳を壁にたたきつけた。
「あの糞アマァアアアアッ! ブッ殺すッ!」
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