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太陽が沈み雨模様の空はますます暗くなってしまった。
天気予報では晴れになるとは言っていたのだがその予報は見事に外れて、昨日からの雪が都会のビル群を潤していた。
私は会社のビルから出てマフラーを赤くなった鼻頭までグッと持ち上げ傘をさすと、待ち人を探すために人ごみから少し離れたところで視線を自動ドアに向けた。
ドアから出てくる人はみんな寒そうに防寒具を慌ただしくつけて傘をさすか、走っていくかを見ているとスッと冷たいものが忍びこんできた。
「ひゃわ!」
「ははは、変な奇声だな」
振り返ると待ち人である彼が赤らんだ手を私の襟まで入れてきていた。
「もう、治(おさむ)くん!」
「悪い悪い。お詫びに今日は奢るから。な?」
「むぅそういうなら……。って、なんでまだ笑っているの!」
「いや、面白くてついな」
ふと気づくと、周りから注目を浴びているのに気づき、私と治くんはいそいそと雑居ビルの合間にある行きつけのバーに入り、カウンターの隅に二人で毎度のように並んで座った。
「マスター。今日はインペリアル・フィズをお願い」
私は席に着くや注文を頼んだ。それをマスターは微笑みながら頷くと目の前で作り出す。
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