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「……ああ、はいはい。……えぇ、いいですよ。場所はですねー」
山田課長は、宮本くんに今からここへ来たいと申し出ているようだった。
店の場所なんかを説明し始めた宮本くんをそばで待ちながら、私は既に憂鬱な気分にとらわれていた。
さっき、会社の前で、山田課長がふいに近づいてきて、シュウちゃんに見せつけるみたいに私の頬にキスしてきた事を思い出す。
最近は嫌な思い出が増えていく一方だ。
早く終わりにしたい。こんな芝居は沢山だ。
それには、言われた通りに演技しているしかないのだろうか。
もう、シュウちゃんは十分すぎるくらいに遠くに行ってしまったと感じているのに。これ以上、何の芝居を仕掛ける必要があるのだろう。
あとは、近いうちに私が会社を辞めてしまえば、きっとシュウちゃんの心は私から完全に遠く離れていくはず。
そうすれば……
離れてしまえば、きっと私もシュウちゃんを忘れられるだろう。
私は、首から下げているネックレスに服の上から触れた。
性懲りもなく、私は、まだシュウちゃんからもらったデザインリングをクビから下げていた。
今夜、家に帰ったらコレは外そう。
そして、2度と身につけない為にクローゼットの奥深くへ仕舞い込めばいい。
宮本くんが返して寄越したスマホの割れた画面を眺めた。
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