星を数えて

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「大丈夫? 樹里」 私を見つけると立ち上がって寄ってくるマキ。 「ごめんね、本当に大丈夫だから」 「マキさん、心配しなくても宮路なら、大丈夫ですよ。もう少しで、彼氏が来るそうだから」 後ろから来た宮本くんがマキの肩に優しく手を置いて座るように促した。 「ここに山田課長が来るの?」 目を大きくするマキ。 私は、椅子に座ると隣のシュウちゃんを気にしながら 「うん……早く打ち合わせが終わったみたい」 と答えた。 感心したようにマキが呟く。 「そっか。かなり山田課長は、樹里にベッタリなんだね」 「そんなことないよ」 隣にいて何も言わないで、静かに飲んだり食べたりしているシュウちゃん。 一体、何を考えているんだろう。 私をどう思っているのだろう。 気にしないつもりでいたのに、やはりシュウちゃんの行動に目がいってしまう。 震えそうになってしまう手を目立たないように動かす。 食べたくもないが、何も食べずにいたら、また無駄にみんなを心配させてしまう。 自分の前にあるサラダにフォークを伸ばす。熟して真っ赤なトマトを避け、レタスを刺して口に入れる。 レタスを口に入れて数回噛んで飲み込む。 なおもサラダの真ん中に陣どる赤くて甘そうなトマトは、きっと高級品なのだろう。 だが、私は熟したトマトや熟した柿が苦手だ。決してトマト全般が嫌いなのではない。 サラダに入れるトマトは、熟していない方が好きだ。サンドイッチにも硬めのトマトの方が合う。 でも、これは作った人の好みであり、味覚の違いでもある。 シュウちゃんは、焼きとうもろこしは好きだが、サラダに入っているコーンが苦手だ。 そっと、シュウちゃんの前に置かれたサラダのお皿を覗くと、やはりコーンだけが残されていた。 変わらないシュウちゃんを見つけたように感じて、なんだか少し安心したような気持ちになっていく。 人の好みは、そうそう変わるものじゃない、そう思えた。
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