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玄関に立っていたのは、ランドセルを背負った優の姿。
俯いている優の表情にいつものような元気さは見えない。
那月は笑みを浮かべながら、言葉をかけた。
「優くん、こんにちは。どうしたの?」
「こんにちは……あの、皐月いますか?」
「皐月ね。ちょっと待ってて」
元気のない彼に何処か不安感を覚えつつ、皐月のことを部屋まで呼びに行く。
部屋の中に入り、優が来てくれたということを話せば、やはり心のどこかでは怖いという気持ちがあるのだろう。
皐月の肩が跳ねた。
「大丈夫。ママもついてるからね」
「……うん」
那月が頭をポンポンと撫でてやれば、皐月は廊下に出て、そのまま玄関へと向かって歩いて行く。
玄関で待たせていた優は、やってきた皐月のことを目にするとごめんなさいと頭を下げた。
「……皐月、ごめん。ごめんな」
「優くん?」
「俺、その……他の男子からからかわれて……つい嫌いだって嘘ついた。それに、無視もして、ごめんな」
「優くん、わたしのこと嫌いなんだと思ってた」
優は、他の男子生徒からからかわれてしまってあのような言動や行動をしてしまったらしい。
それを聞きながら、皐月が少し安堵したような表情を見せる。
嫌いなんだと思っていたという言葉に、そんなわけないだろ!と顔を真っ赤にさせて怒る優に、くすりと那月も笑ってしまう。
本当に素直ではないのだ。
「これ、うちの庭にあった花。俺のせいだし、お見舞いというか、お詫びっていうか……」
そう言って、優が取り出したのはピンク色の可愛らしいバラの花。
それを受け取った皐月がありがとうと素直に喜んでいる横で、那月は優の絆創膏を貼っている手を見つめながら問いかけた。
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