第一話 【その代償】~緑河柳太~

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 借金が一気に無くなって、しかも就職まで決まりそうだというのに、柳太の脳内は未だ混乱状態だった。展開が少し突飛過ぎやしないだろうか。 「柳太が良ければ私は構いませんが……。でも、うちの子が役に立つかどうか……」 「大丈夫ですよ! 柳太くんの得意分野だと思いますから。常連客の僕が言うんですから間違いないです!」  夕は自信たっぷりに言った。彼は柳太の友人ではない。この店の常連客でしかない。それなのに一体柳太の何を知っているというのだろう。頭の中で疑問は絶えず生まれていく。けれど今は、それを一つ一つ口に出せるほど冷静ではいられなかった。 「ありがとうございます。柳太、ほら。なんとか言いなさい。赤荻さんがこんなに言ってくれてるのに、黙り込んでお前は……」 「あ、あぁ、えっと……」  いやいや、俺はここで何を言ったらいいんだよ? 「どう? 来てくれるかな?」 「夕さん、あの――」  柳太は夕を見つめ、それから洋一に目を移す。混乱する頭の中で必死に考えた。  四百万の借金の肩代わりはタダ事じゃない。その代償がこの人の家に就職することだとしたら、それも仕方ないんだろうか……。  この人は崖っぷちだったこの店と、父さんを救ってくれた。謂わば命の恩人と言ってもいいかもしれない。その代償としてみればこんなこと、何のことはない……か……? 「えっと……」  希望していた仕事とは絶対に違う。だが就職も決まって、この店も今まで通り手伝える。給料ももらえる。条件としてみれば悪くないはずだった。決断を迫られ、柳太は口を開く。 「お、俺なんかで、いいなら……」  途端に夕の顔がぱあっと明るくなった。 「是非、よろしくお願いしたいと、思います……」 「やった、良かったー! 助かるよ! じゃあ早速今日からお願いしようかな!」 「は……? えっとあの、今日からって、これからですか?」  その時、夕のケータイが鳴った。店の前にはセダンタイプの黒光りした車が停まっている。運転席には黒縁眼鏡をかけた男が座っていて、怪訝そうに店の中を覗いていた。
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