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「ん……、あれ……?」
気がつくと、柳太はベッドの上にいた。カーテンの隙間からは明るい日が差し込んでいる。天井をぼーっと眺めて、何の気なしに寝返りを打つ。と、次の瞬間、柳太は驚いて咄嗟に起き上がった。
な……! なんで夕さんがここに?
柳太のベッドの脇では、夕が椅子に座ったまま腕組みをして眠っている。これは一体どういうことなのだろう。まるで病人に付き添っているようではないか、とそこまで考えて柳太は首を傾げた。
ちょっと待った、なんで俺寝てんの? っていうか、昨日何があったんだっけ……。
ふと考えてみる。だが、昨夜何があったのかを思い出すよりも前に、柳太はもっとひどい違和感に気付いてしまった。なんだか体がスースーする。慌てて布団をめくり、自分の体を見る。ぎょっとした。服を着ていないのだ。しかし、自分の下半身を確認してホッと息を吐き、安堵する。
あぁ、良かった……。パンツは履いてる――。いや、でもなんで服を着てないんだ……?
柳太はもう一度順を追って昨日のことを思い出した。
夕べ、柳太は夕に雇われることになって、この家へ使用人としてやって来た。この部屋へ案内してくれたのは穂積で、ここは柳太の部屋だ。そこまでははっきりと覚えていた。
それから部屋で待ってろって穂積さんに言われて、ベッドで寝っ転がって……。
その先を思い出して、柳太は頭を抱える。突然の物音と共に現れたアレは一体、何だったのだろう。
この家相当古そうだし、まさか幽霊じゃ……。
窓から突然忍び込んできた白く長い手。そして『こんばんは』という声。柳太はそれらをまだ鮮明に覚えている。間違いない。あれは夢ではなかった。
男の声だった……よな。でも、変だ。そこから記憶がない……。あの後、俺は一体どうなったんだ……?
――その時だった。
「……柳太!」
「はいっ!」
不意に耳に飛び込んできた声に驚き、柳太は反射的に布団を被って返事をする。見ると、夕が目を覚まし、はあっとため息を吐いていた。
「起きたか……! 良かったぁ。ったく、コールドスリープしちゃったのかと思ったよ」
「コールドスリープ?」
「だって何しても起きないんだもん」
「えっと、何してもって言うのは……?」
柳太は自分の体を今一度見た。状況から見ても、まさか夕に寝込みを襲われたわけではないとは思うが、少なくとも、寝ている間に服は脱がされたらしい。
「誤解すんなよ? 別に変なことしたわけじゃないからな。夕べお前の着てた服が泥だらけになってたから、穂積と二人で脱がしたんだ。ったく、全然起きないんだもんな」
「泥だらけ? 俺、泥だらけだったんですか?」
「そう。あのさ柳太、お前昨日ここで、変な奴に会っただろ?」
「変な奴……」
変な奴というか、あれは人間だったんだろうか……。
「変というか……、窓からいきなり入って来たんです。白くて長い手が。俺、それで――」
「驚いて、気絶した」
「き、気絶?」
それこそ驚いて聞き返した。まさか自分があの後気絶していたなんて思わなかったが、確かに、言われてみればそこからぷっつりと記憶はなかった。
「そう」
「でも……、なんで夕さんが知ってるんですか?」
柳太が聞くと、夕は呆れたように眉を上げた。
「説明してやるよ。夕べ尋常じゃない物音がして、おれと穂積と篠崎さんはここへ慌てて駆け付けた。そしたらお前がぶっ倒れてて、窓から入って来たそいつがおろおろして立ってた。お前はなぜか服が泥まみれ。聞きゃあ倒れたお前を一応助けようとして、泥だらけの手で抱きあげたらしいんだけど持ち上がらないし、お前は起きない。んで、どうすることもできずに途方に暮れてたってわけだ」
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