1569人が本棚に入れています
本棚に追加
借金が一気に無くなって、しかも就職まで決まりそうだというのに、柳太の脳内は未だ混乱状態だった。展開が少し突飛過ぎやしないだろうか。
「柳太が良ければ私は構いませんが……。でも、うちの子が役に立つかどうか……」
「大丈夫ですよ! 柳太くんの得意分野だと思いますから。常連客の僕が言うんですから間違いないです!」
夕は自信たっぷりに言った。彼は柳太の友人ではない。この店の常連客でしかない。それなのに一体柳太の何を知っているというのだろう。頭の中で疑問は絶えず生まれていく。けれど今は、それを一つ一つ口に出せるほど冷静ではいられなかった。
「ありがとうございます。柳太、ほら。なんとか言いなさい。赤荻さんがこんなに言ってくれてるのに、黙り込んでお前は……」
「あ、あぁ、えっと……」
いやいや、俺はここで何を言ったらいいんだよ?
「どう? 来てくれるかな?」
「夕さん、あの――」
柳太は夕を見つめ、それから洋一に目を移す。混乱する頭の中で必死に考えた。
四百万の借金の肩代わりはタダ事じゃない。その代償がこの人の家に就職することだとしたら、それも仕方ないんだろうか……。
この人は崖っぷちだったこの店と、父さんを救ってくれた。謂わば命の恩人と言ってもいいかもしれない。その代償としてみればこんなこと、何のことはない……か……?
「えっと……」
希望していた仕事とは絶対に違う。だが就職も決まって、この店も今まで通り手伝える。給料ももらえる。条件としてみれば悪くないはずだった。決断を迫られ、柳太は口を開く。
「お、俺なんかで、いいなら……」
途端に夕の顔がぱあっと明るくなった。
「是非、よろしくお願いしたいと、思います……」
「やった、良かったー! 助かるよ! じゃあ早速今日からお願いしようかな!」
「は……? えっとあの、今日からって、これからですか?」
その時、夕のケータイが鳴った。店の前にはセダンタイプの黒光りした車が停まっている。運転席には黒縁眼鏡をかけた男が座っていて、怪訝そうに店の中を覗いていた。
最初のコメントを投稿しよう!