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祥子ちゃんは浩輔の授業は受けてなかった。
しかし合気道の練習から、その面白さは窺い知れる。
そして、一緒に合気道部に入った倉本さんに聞いてみた。
「山元先生の授業って面白いらしいね。」
「うん。とても面白いけど、少し変わってるよ。」
「何が変わっているの?」
「社会の授業なのに物理学の話なんかする。例えば現代の量子力学の考えは仏教の唯識論と似通っているとか、宇宙があるから観察するのではなく、我々が観察するから宇宙がある。この世界は我々の作りだした影に過ぎない。だから自分が死ねばこの世も消える。とか、時々わけのわからないことを言う。でも普段は分かりやすい授業やし、よく知っているよ。」
「ふーん。(私が考えていたことと一緒だ。)今度職員室の先生の所へ行かない?」
「別にいいけど、どうして?」
「どうしても。」
そうしてある日、二人が職員室の浩輔の机までやってきた。
祥子ちゃんは机の上に置いてある本を見て驚いた。
「私と同じ趣味。」
浩輔の机上には二重の本棚があって、学研の「ムー」やら「合気道マガジン」やら心理テストの本なんかが並べられてあった。
勿論、倫理の先生らしく、ニーチェやキルケゴール、そして聖書なども整然と並んでいた。
浩輔がいることを確認した祥子ちゃんは、無造作に浩輔の机の上の本をいじくりはじめた。
「私、こんなの興味ある。」
そう言ってバウムテストの本を手にする。
次に合気道マガジンを手にとって開く。
「(普通なら『見せて下さい』くらい言うのが当たり前なのに変わった子だ。)」
浩輔はそう思ったが、別に咎め立てはしなかった。本を手に取る動作が可愛らしかったからである。
「先生もムーなんか読むんや。」
「ああ、興味あるからね。」
「このテストで何かわかるの?」
バウムテストの本を手にとって祥子ちゃんが尋ねる。
「ああ。色々とわかるよ。分析しようか?そこのスケッチノートに実のなる木を書いてきてくれたら分析するよ。」
そう聞くと、祥子ちゃんは無造作にスケッチノートを引きちぎった。
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