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料亭の仲居が新しいお茶を持ってくると、雅は我に返り熱いお茶を啜って目を伏せた。
そっと息を吐いて気持ちを落ち着かせる。
ちらりと盗み見た武士もまたお茶を啜り、ふと庭へと向けた横顔をやっぱりかっこいいと思う。
「あの、すみません」
雅は小さくお辞儀をした。
武士が不思議そうに自分へと視線を向けたのを確認すると、目を伏せた。
「何がですか?」
「あの私、ブラストのことになると、ついテンション上がっちゃって」
「それを言うなら、私もなのでお互い様です」
ついさっきまで、“俺”と言っていたのに“私”に戻っている。
折角近くなった距離があっという間にふりだしに戻った気がした。
切なくなってますます目を伏せると、小さく笑う声が聞こえた。
「そんなにしょげなくていいですよ。お互い様だと言ったでしょう」
顔を上げて見た武士の表情は、とても優しく微笑んでいる。
ぎこちなく微笑み返すと、武士は笑んだまま頷いてくれた。
「ところでさっき言った、ブラストとは?」
「あ、Bloodstonesの事です。略してブラスト、です」
雅が微笑んで答えると、武士は微笑んだまま固まってしまった。
「え、た、武士さん?ちょ、大丈夫、ですか?」
躊躇ってから、少し勇気を出して手を伸ばす。
湯呑に添えるようにテーブルに置かれた武士の手を、そっと触った。
その手をぎゅっと握り返された。
驚いて見上げた武士の顔は、真剣で、手を引こうにもしっかり掴まれていて動けない。
「雅さん」
「はいっ!」
「もしや、最近の若者は、Bloodstonesをブラストと呼んでいるのか?」
「そう、ですね。……雑誌とか特集されたりしても、ブラストって書いてたり……友達もみんな、ブラストっていいます、ね」
だから、自分も普通に略して使っていたのだが。
これはマイナスポイントになるのかもしれない。
うろうろと視線を動かす雅の手が、ぱっと離された。
それだけで、ときめきのドキドキが不安なドキドキに変わる。
離されてしまった手をなんとなくテーブルの下へと下げると、きゅっと握りしめた。
「そうか、今はブラストと呼ぶのか、」
武士が呟いている。
そして、至極真剣な瞳を雅に向けた。
「雅さん。俺は……そんな事も知らない“おじさん”なんだぞ」
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