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青空に、白い雲が空の3割を占める初夏。
立派な日本庭園の綺麗に揃えられた松の葉を、そよそよと風が通り抜け、形のいい岩の肌を心地よく水が流れる。
そして、突き抜ける鹿威しの音色。
若菜武士は無表情のまま、目を伏せた。
一枚板で作られたテーブルの原木は、樹齢150年を優に超えているだろう。
立派なその縁を何気なく撫でた手で、湯呑を持ち上げた。
既に中のお茶は冷め始めている。
一口喉を潤し、武士は止めていた思考を動かした。
さてどうしたものか。
向かいをじっと見据えながら、湯呑を戻した。
武士は今、絶賛お見合い中である。
これまで何度も来た縁談を、仕事が忙しいという言い訳を使い、ことごとく断ってきた。
いや、言い訳というには語弊がある。
実際は、昔ながらの知り合いから声をかけられ会社の立ち上げから関わってきていて、軌道に乗るまでは縁談どころではなかった。
そうして気が付けば30歳も過ぎ、実家から半ば脅しのように次々と持ち掛けられるお見合いを、一度は受けざるを得なくなってしまった。
だが、仕方がないと思う。
自分は実家の家業をすべて兄に任せ1ミリたりとも手伝っていないのだから、見合い位受けて親孝行でもしてやらなければならない。
漸くそう思うようになったのはついこの間のことで、一緒に仕事をする仲間達が、次々と幸せを手に入れ出したのを目の当たりにしてからだった。
ひとまず、定番な台詞でも唱えてみようか。
こういう場合は男の方から話かけた方がいいのだろう。
一度視線を動かし、開け放たれた襖から庭を見ると、小さな池の鯉が白と朱を揺らして漂っていた。
意を決し口を開く。
「今日は天気が良くて良かったですね」
ひと先ずこれで、会話の出だしとしては間違いないはずだ。
戻した視線の向こうで、弾かれた様に顔を上げた瞳とぶつかった。
「えっ、あ、は、はいっ、」
何度もつっかえた返事をしながら、見事に頬が朱に染まっていく。
ちらりと自分に贈られる視線に、武士は平静を装いつつ、心の中で一歩後ろへ足を引いた。
“ドン引きする”の意味で引いたのではなく。
慄いた、というのが正しい。
それも仕方がないだろう。なんたって、30過ぎた自分の相手が、高校を卒業したばかりのお嬢さんだったのだから。
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