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雅は大学のカフェテリアで、本日十数回目のケータイチェックをしていた。 普段大学にいる間はあまりケータイをいじるタイプではない雅なので、高校からのクラスメートたちが訝し気に眉を寄せた。 「おい、雅。今日お前なんか変だぞ」 「ほーんと。どうしちゃったの?雅ちゃん」 「今日ってブラストの新譜発売とかだっけ?」 「先月出てたからそれはねぇだろ」 「じゃあ月間MUSICの発売?」 「それは月末じゃねぇの?」 桜花学園高校の生徒は、比較的桜花大学へと進学する者が多い。 姫になると推薦で大学進学できるので、雅もそれに倣って大学へと進学した。 高校3年の後半には、親戚から見合いの写真が山のように届き始めていたため、多少の反発心もあり大学へ進学を希望したのだが、武士に出会ってしまった今、大学なんて進学しなくてもよかったのではないかと思ってしまう。 「雅?」 ぽん、と頭に誰かの手が載った。 手繰るようにその先へと視線を動かせば、隣に座った朔が覗き込むように見ていた。 「朔ちゃん……」 「ほんと、今日どうしたんだ?」 「べ、別にどうもしないよ?」 「んなわけねーだろ。お前朝からずっと落ち着きねーし」 朔とは反対側から、修平が腕を組んで視線だけで見下ろした。 「今日ってなんかの発売日だっけ?」 正面から首を傾げる涼乃に首を振る。 皆の視線に居心地悪く、居住まいを正した。 「なんかの発売日でもないし、なにも、ないってば」 言いながら視線を落とす。 本当に何もないのだ。 雅は見合いをし武士に交際を申し込まれてから、そわそわと落ち着きなく連絡を待ってはいるが、何もない。 わかってはいる。 自分を溺愛する兄ですら、平日用事がなければケータイに連絡をしてくることなどないのだから、まだ出会ったばかりのきちんと仕事をしている大人の男が、ホイホイ連絡してくるとは思っていない。 だから、“連絡してほしい”が半分、残りは“期待して待っている”ことを楽しんでいた。 「さては……男か、」 斜め前に座っている清史郎が頬杖を突きながら言った。 するどいっ! そう思ったものの、とっさに首を傾げてとぼけて見せた。 「みーやびー。俺らの目は誤魔化せないからなー?」 テーブルに身を乗り出した聡介の言葉に、男たちが一斉に頷いた。
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