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ズガーン
眩暈を起こしそうになり、慌ててハンドルをぎゅっと握った。
都合よく信号が赤に変わり、ほっと息をつく。
武士は困った顔で笑うと、一度躊躇った手を伸ばし掠めるように雅の頬を撫でた。
「少し、寄り道しても良いですか?」
自分を見上げる瞳がきらきらと輝きだし、コクリと頷いた。
「貴方が可愛いことを言うので、このまま家に送るのが惜しくなりました」
車は交差点を曲がり、脇道へと反れる。
今度は雅の方に衝撃が走り、頭から湯気が出そうなほど赤くなった。
到着したそこは、可愛らしい外観のパティスリーだった。
看板には『Orange』の文字がおしゃれに飾られている。
「あ、ここ、有名ですよね」
雅が顔を輝かせた。
一階の洋菓子店で頼んだケーキを二階のカフェスペースで食べることができる。
駐車場に車を止めると、武士は頷いた。
「さすがに知っていましたか。来たことはありますか?」
「いえ。なかなか来る機会がなくて」
「そうですか。ではこの情報はどうですか?ここのオーナーパティシエの三浦さんは実はブラストとお知り合いというのは」
「えーっ!!そうなんですか!?」
武士は得意げな顔で深く頷いた。
雅は目玉が落ちそうなほど見開き、身を乗り出して武士を見る。
桜花大学があるS市は武士や雅が住むT市の隣町で、Bloodstonesの地元で有名だ。しかも活動の拠点を地元に戻したという。
かといって街を歩いていれば見かけるなんてことは殆どないのだが、時々、本当にたまに、目撃情報が流れたりする。
「レンが桜花学園出身なのは?」
「それはっ……はい、もちろん知ってました」
何しろ雅は、それで桜花学園高校を受験したようなものだ。
そんなことでと言われるのが嫌で、受験の理由は誰にも告げていない。
「では、参りますよ」
ガチャリとドアを開け、武士が車を出ていく。
雅が慌ててシートベルトを外していると、外からドアが開けられた。
「そんなに慌てなくても店は逃げませんよ」
「えっ、いえ、えっと、」
あたふたと鞄を抱え直せば、影が差した。
「もちろん、俺も貴方を置いては行きません」
ふっと微笑みながら大きな手が差し出される。
雅の心臓はぞうきんを絞るほどギュっと苦しくなり、そっと差し出した手をしっかりと握り返された。
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