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「いらっしゃいませ」 カランと少し籠ったような音のドアベルと、柔らかい声が二人を迎い入れた。 店の奥から出てきた長身の男性は、白いコックコートに茶のエプロンとキャスケット帽をかぶっていた。 ふんわりした髪がその下から覗き、黒縁メガネを押し上げる。 目の前のガラスケースの中には、キラキラと輝く宝石のようなケーキが並んでいて、ケーキ屋と言うよりもジュエリーショップに来たのではないかと思うほど、店の中が輝いていた。 「雅さんはどれにしますか?」 雅は隣から降ってきた低い声に、慌ててショーケースの中を見つめた。 どれも美味しそうだが、それより繋がれた手が気になってしょうがない。 車を降りるときに差し出された手に包み込まれるように握られて、そのまま店の中まで歩いてきた。 「た、武士さんは、どれにするんですか?」 「そうですね……どれもおいしそうなので迷いますね」 言いながら身を屈めた武士に引っ張られる形で、一緒にケースの中を覗き込んだ。 「あ、これ可愛いっ!」 正面より少しずれた位置に並べられたピンク。 ラズベリーに赤いグラサージュがかかり、側面に真っ白なレース模様があしらわれている。 雅はそれを一目見た瞬間、顔を輝かせた。 「武士さん、私このケーキにします!」 繋がれたのとは反対の手で袖を引く。 武士は指さされたケーキを見て目元を緩めた。 雅にピッタリなケーキだ。他のどのケーキを見比べても、これほど雅に似合うケーキはないだろう。 頷いて顔を上げると、ここのオーナーパティシエの三浦が二人を見ていた。 黒縁メガネの奥の少し垂れた目が優し気に細まる。 武士は何度かここを訪れているが、その度に「この人がBloodstonesと知り合いなのか」と感慨深げになってしまう。 じっと見つめそうになり、慌てて目を伏せるようにケースへ視線を落とした。 輝くラズベリーのケーキを指す。 「この『Angel』と『ショコラオランジュ』を。食べていきます」 「かしこまりました」 2階へ上がり、窓際の席へ座る。 徐にケータイを取り出した武士は、雅とケーキを写真に撮った。 「……え?」 「いえ、あまりにもそのケーキが似合っていたものですから」 お気になさらず、と加えられたが、雅は気にせずにはいられなかった。
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