357人が本棚に入れています
本棚に追加
「気になりますよ!」
顔を真っ赤にさせて、上目遣いに潤んだ瞳を向ける。
この瞳にもやられたんだろうな、と思う。
頬を膨らませてすねた顔も可愛らしい。
その可愛らしさに思わず笑ってしまうと、雅が口まで尖らせた。
「笑って誤魔化したって駄目です」
「いや……あまりに可愛らしいので、仕事で疲れた時にでも眺めようかと」
「かっ、……可愛らしいっていうのは……私を子供だと思ってるんですか?」
ますます拗ねてしまった。
「まさか。子供と交際する趣味はありません」
武士の頭の中に、自分をロリコン呼ばわりした銀が浮かぶ。
「私だって……みんなは武士さんのこと、おじさんなんて失礼なこと言いましたけど……私はおじさんと付き合ってるつもり、ないですから」
雅は仲間達が発した文句を気にしていたようだ。
なんだ、そうか。
不意に、武士はすとんと腑に落ちた。
別に自分達がいいのだから、それでいいじゃないか。
なにをこんなに歳の差のことで悩んでいるんだ。
自分は彼女がよくて、彼女も自分がいいという。
それで、いいのか。
二階のカフェスペースの奥から盆を持った店員が近づいてくる。
コーヒーと紅茶をテーブルに置くと、小さくお辞儀をして去って行った。
「いただきますか」
コーヒーカップに手を伸ばすと、向かいで雅が小さく呟いた。
「私……ちゃんと武士さんの彼女ですか?」
とても小さい声だったが、しっかりと聞き取れた。
「えぇ、もちろん、そのつもりでしたが」
「そしたら、一つだけ、お願いしても、いいですか?」
「なんでしょう」
伺うように見上げる瞳は、ゆらりと揺れてから戻ってきた。
「もっと普通に、してもらえると、嬉しいです」
「……普通?」
「雅さん、じゃなくて、雅って。友達には呼び捨てにされるのに、武士さんには『雅さん』って呼ばれるの……やだ」
顔は頬を膨らませ口を尖らせた拗ねた表情のままだ。
「わかった」
返事をして、はにかんだ笑顔に目元が緩む。
感情のままに手を伸ばし、赤らんだ頬をそっと撫でた。
「可愛い」
嬉しそうに目を伏せる雅を見ながら、「可愛い」は良くて「可愛らしい」はダメだということをインプットした。
「雅」
がばっと音がしそうな勢いで顔を上げる。
武士は小さく笑いながらコーヒーカップを持ち上げた。
最初のコメントを投稿しよう!