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艶のある黒髪がハーフアップに結われた根元に、大きなリボンが載っている。 額を覆う前髪は、眉より僅かに下で綺麗にそろえられ、俯いた拍子にかすかに揺れた。 薄桃色の着物の淡い生地とは対照的な、深紅と深青で描かれた柄は見事な花に蝶が飛んでいて、蝶よ花よと育てられたことを体現しているようだと武士は思った。 さて、天気の次はどうしたものか。 武士は、むぅと口を引き結んだ。 仕事相手や仲間の嫁とは会話をするし、特別女性が苦手というわけではないが、今回の相手は、なんせ年が離れすぎている。 会社にも男性だが若い社員はいるが、向こうが恐縮してしまい、世間話などという会話らしい会話はしたことがない。 仕方ない、と武士は普段営業ではどうしていたかと思い起こし、いつもの自分に倣って息を吸った。 「ここには何で来られたんですか?」 「あ、はい、えっと、あの、お、お見合い、で」 武士は一瞬、何と返事されたのか理解できなかったが、持ち前の頭の回転で素早く対応して見せた。 「いえ、それは私も同じですが……交通手段は?」 「あっ!そ、そうですよね!」 既に朱に染まっている頬が、さらに色を濃くさせていく。 「き、着物を着せて貰ってから、た、タクシー、で、」 うろうろとさ迷わせる真っ黒な瞳に膜が張り、小さな色白の手が顔を仰ぐようにする。 耳まで上気させた彼女が照れ臭そうに微笑んだ瞬間、武士は衝撃を覚え、目を見張った。 雷が、脳天から脊髄を通って突き抜けた感覚がした。 出会ってしまった!! そう、確信した。 ビビっと来たなんてもんではない。 ズガーンと、やられた。 武士は伺うように自分を見上げる黒い瞳に漸く我に返り、揺れる視線をごまかすように一度目を伏せた。 「そ、そうですか。タクシーでしたか」 「は、はい。え、えっと、あの、……武士さん、は?」 ズガーン、二度目の衝撃が来た。 可愛らしい声が、自分の名前を呼んだ。 目を見張るよりも見開いた武士に、慌てて謝罪の声が聞こえてくる。 「あっ、あのっ、ご、ごめんなさい!いきなりお名前で呼ぶなんて、失礼ですよね」 その慌てた姿が愛らしいこと。 武士はゆっくり首を振ると、漸く本来の自分が戻り、口の端を持ち上げた。 「私は車で来ましたよ。雅さん」
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