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武士は自分が思いつく限りの店を頭の中に浮かべた。 駅前のあそこは……居酒屋だ。 あの通りにある店は……あそこは酒屋がやってる飲み屋だ。 あっちの角にあるのはチェーン店の居酒屋だし、折角だからちゃんとした店に連れていきたい。 ちゃんとした店とは、どこだ。 どの店も違法な店ではないのだから、ちゃんとしているではないか。 いや、そういうことではなくてだな。 居酒屋だと雅はまだ未成年だから、なんとなく連れていきにくいという話だ。 そもそも車で来ているのだから、酒は飲めないじゃないか。 それならいったん車を置いて……って、だから俺は居酒屋に行く気満々か! 武士は自分の頭の中で盛大に突っ込みを入れると、眉間を揉んだ。 ふと街の反対側に見える小高い山に気が付いた。 「あそこのフレンチもいいんだが……そういえば、予約が必要だったな」 武士の呟きに、雅は驚愕した。 仲間達と外食をしたこともあるが、大抵ファストフードかチェーン店のファミレスだ。 後は茶道の関係でパーティーというものに連れて行って貰ったことはあるが、母親が料理好きということもあって、記念日など殆ど自宅でお祝いだった。 堅苦しいレストランなんて食べた心地がしなさそうだ。 そもそも雅の頭の中は、今、武士としたキスのことでいっぱいで、胸いっぱい、お腹いっぱい状態だ。 武士はふと視線を落とした。 「肉と魚、どちらがいいですか?」 「肉!」 コクリと満足そうに頷いた武士に、雅が小さく噴出した。 「武士さん、口調が敬語になってます」 「む、……そんなことはない……だろう」 「あははっ、」 「……、」 どうやら、自分でも予想外の行動をして緊張していたようだ。 武士は、こほん、と咳払いをして、何事もなかったのように顔を戻した。 「ふふっ、」 雅がますます笑っている。 武士も諦めて、困ったように苦笑を漏らした。 「肉、食べに行くぞ」 「はい!ふふっ、」 「いつまでも笑ってると、お前を先に食べることになるぞ」 手を繋ぎながら思ったまま口に出せば、雅の顔が真っ赤に染まる。 自分の発言の意味をしっかりと理解した反応に、武士は満足そうに口の端を持ち上げた。 「わ、私は、いいですよ」 「こら」 湯気の出そうな頭に手を伸ばし、数回跳ねさせた。 「そのうち、な」
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