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「そのうち」とはいつになるんだろう。
帰りの車の中で、雅はちらりと運転席を見上げた。
大学では高校の時の仲間以外に、女子の友達も増えた。
その子たちと居ると決まって彼氏の話になるのだが、すでに数人目の彼だという子は最初の彼にハジメテをくれてやったと言う。
それを後悔しているという話を聞きながら、隣に座る別な子が「わかるー」と相槌を打っている。
付き合い記念日にラブホテルへと行った話のあたりで、そそくさと席を離れ高校からの仲間の元へ行けば、「お前、付き合う友達間違ってるぞ」と言われた。
そんなこと、わかってる。
彼女たちと自分では、今までの環境が違うことくらい。
でも何も知らないわけにもいかないと思い始めたのは、沢山の見合い写真が届きだしてから。
ブラストと甘やかしてくれる兄と、お前は何も知らなくていいという仲間達の中で漂うだけではだめだと思ったのだ。
それに一番は、武士に出会ってしまった。
ブラストと兄以上に、好きな人が出来てしまった。
だから、彼氏のいる女子の友達の話を聞いたり、ブラスト以外の雑誌なんかも沢山読んだ。
付き合うとはどういうものか。どんなことをするのか。
何も知らないとはいえそれは経験がないだけで、キスもすればおのずとその先の事も考えてしまうし、考えない人なんていない筈だとさえ思う。
そしてそれが、いったいいつ訪れるのか。
じっと一点を見つめ考えていたところ、頬が撫でられた。
「大丈夫か?」
心配そうな顔が覗き込んでいる。
なんだか、無性に離れたくないと思った。
「もう、帰りますか?」
「……うん?」
「……まだ、一緒に居たいです」
絞りだした声は掠れたが、ちゃんと聞こえたようだ。
ぽんと頭に大きな手が載せられて、車は自宅とは別な道へと曲がった。
「少し、ドライブでもするか」
「……はい、」
街を抜け、海沿いの国道に入る。
普段海には来ないのでワクワクする。
海の深い青と空の群青の境目にオレンジ色のグラデーションが出来ていた。
「わぁ、……綺麗」
「あぁ」
見てというように振り返れば、穏やかな微笑が向けられる。
そうして、海沿いを少し走り、駐車場へと車を停めた。
「外に出てみるか?」
「うん」
自然に返事をした雅に、武士の目元が一層緩んだ。
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