9/10
前へ
/49ページ
次へ
「ふふっ」 「おじさんをからかうんじゃない」 「私の彼氏はおじさんではありません」 ニコッと微笑まれて、武士は赤くなった頬をそのままに、盛大にため息を吐き出した。 「……嫌いになりました?」 覗き込むように見つめる雅の漆黒の瞳が潤んで揺れる。 あまりにじっと見つめるから、武士はその瞼にキスをした。 「いいや、むしろ……。雅、好きだ」 ゆらゆらと揺れる瞳を見つめて、はっきりと告げた。 何がと言われたらわからないが、きっと、恋に落ちるとはこういうものだったかもしれない、と久しく感じたことのなかった気持ちに腑に落ちた。 「私も、大好きです!」 雅もまた、理由を聞かれたらわからない“それ”に堕ちた。 今までさんざん聴いてきたBloodstonesが歌う歌詞を、漸く、ちゃんと理解できる気がする。 ぎゅーっと抱き着けば、大きな手がぽんぽんと頭を撫でた。 「そろそろ帰るぞ」 小さく笑いながら告げられた言葉に首を振った。 「やだ」 「……雅」 「武士さんと離れたくない」 ずいぶん好かれたもんだな、と武士は小さく笑う。 それが好きな女ならこれほど嬉しいものだったかと思うと、自然に顔が緩んだ。 「ここに居れば風邪をひく」 「じゃあ、武士さんちに行く」 「……駄目だ。家に送っていく」 「なんで駄目なの?」 「うちに居れれば、ただじゃ済まない事になる」 「なっても良いです!」 ぎゅっと服を掴んで見上げる雅を見つめ、武士は顎を掴んでキスをした。 ただ重ねるだけじゃなく、唇を開き、舌をかすめる。 雅は驚いてビクリと肩を揺らした。 「これだけでそんなに驚いていて、よく良いと言ったな?」 「っ、」 「何をそんなに焦っているんだ?」 顔を覗き込まれて、瞳が大きく揺れた。 焦っているとは、雅自身は思っていなかった。 ただ、好きな人が出来て彼氏になったら、キスより先はあっという間にたどり着くものだと思っていたし、友達はみんなそうだと言っていた。 「誰に吹き込まれたのかは知らないが、心配するな」 大きな手がゆっくり頬を覆い撫でた。 「ゆっくりじっくり、時間をかけて頂くから」 ボン、と音がしそうな勢いで、雅の顔が赤くなった。 「ほら、立てるか?」 武士は立ち上がり、手を差し伸べた。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

357人が本棚に入れています
本棚に追加