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階段をゆっくり登りながら、ちらりと雅を見下ろした。
「不満そうだな?」
「……そんなこと、ないですけど」
「そんなに欲求不満か?」
「違いますっ!!」
真っ赤になった雅に、噴出した。
「そ、そんなに笑わなくたって!」
「いや、……ははっ、あまりに可愛くてな」
「た、武士さんは、か、帰したくないとか、思ってくれないんですか」
真っ赤になった顔を俯けて、頬を膨らませている。
困った顔で微笑んだ武士は、苦笑を漏らした。
「今まさに思っている」
「っ、」
「だが、」
「……?」
「俺は節操なしじゃないんでな。それに、」
口を噤んで隣を見れば、じっと見上げる真剣な瞳に、また小さく笑った。
「好きなものは時間をかけてじっくり愛でたいんだ」
これは喜んでいいものか、遠回しに断られたと悲しめばいいのか。
とはいえ、ついさっきハッキリ断られたばかりなんだから、これは喜ぶべきなのだろう。
微妙な顔をした雅にくつくつと笑いながら、武士は口を開いた。
「じゃあ、そうだな」
繋いだ雅の手にきゅっと力を込める。
「雅の二十歳の誕生日に予約をする」
「予約……?」
「あぁ」
「誕生日?」
「あぁ」
「ずいぶん先なんですけど」
「ククッ……そうだったか?」
「もしかして、知ってて言ってます?」
「さぁ、どうだか」
「絶対、そう」
「ははっ、」
「その前に、『雅ー、やっぱり誕生日の前に抱かせてくれー』って言ってもダメですからね」
「はははっ、あぁ、わかった」
「……わかっちゃうんですか」
「大人だからな」
「私、欲しいもの見て駄々をこねる子供みたい」
「違ったのか?」
「違います!」
「はははっ」
「私は立派な淑女です」
「ぶはっ、しゅ、淑女!!」
「笑いすぎです」
「淑女は強請らないだろう」
「…………」
「……くくっ、」
「…………」
「……っ、あー、コホン。淑女の雅さん」
「…………」
「車にお乗りください」
ドアを開けて促す武士に、じろりと視線を向ける。
優しく微笑んでいて、雅も小さく噴出した。
「ありがとうございます」
白々しく言って車に乗り込む。
運転席へと回ってくる武士を見ながら、雅は緩んだ頬を両手で覆って俯かせた。
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