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「ホントだ!」
わーっと小さく声を漏らしながら、婚姻届けをじっと見つめる雅の目の前へ。
武士はもう一度ポケットを漁って差し出す。
「勿論、こっちも準備万端だぞ」
3年間、あれでもないこれでもないと、結婚準備マガジンが出るたびに載っている婚約指輪を見つめていた。
ついにこれだと指さしたものが、目の前に差し出されている。
「武士さん、これ!!」
「3年も猶予があったからな。好きなものを選べたから良かったんじゃないか?」
「それは、うん!でも、用意していてくれるなんて凄い!」
キラキラと輝く瞳に、武士は小さく咳払いをした。
「大人の余裕ってやつだ」
「わぁ……」
「……こういう使い方で合っているか?」
「たぶん」
雅はもう、武士の話は右から左だ。
キラキラ輝く指輪をぼんやり見つめると、勢いよく武士を見上げた。
「はい!お願いします!」
ケースごと武士に押し付けて、左手を差し出す。
武士はその手を驚いた顔のまま数秒見つめ、それからふっと微笑んだ。
「では、失礼して」
恭しく雅の手を取り、指輪を箱から取り出す。
その薬指につけようとして、止まった。
「……言った方がいいのか?」
「是非!」
「あー、コホン」
「ふふっ、」
「雅さん、俺と結婚してください」
「はい、喜んで!」
少々棒読み気味なのは照れ隠しだ。
雅はそれを分かっていて、満面の笑みで答えた。
ゆっくり指に嵌められる指輪が一際輝く。
収まったところで手が引かれ、輝くそこにキスをした。
「“君の薬指にキスをしたー”」
「それだ」
雅がBloodstonesの曲の一節を歌う。
「やってみたかったんだ」
「念願叶って良かったです」
「ありがとう」
「いいえ、私も嬉しいです」
「……」
「……、」
「……笑うな」
「だって武士さん、すっごい照れてるんだもん」
「むぅ」
「ふふっ、」
真面目な顔に戻そうと口を引き結ぶ武士を、嬉しそうな顔で見上げる雅。
「帰るぞ」
「はーい」
「腹減ったな」
「ご馳走沢山あるよ」
「お義母さんのご飯は美味いからな」
「私のは?」
「……味が濃い」
「うそっ!」
「おじさんはそろそろ薄味がいい」
「まだそんなにおじさんじゃないのに!?」
「そうか?」
「そうです」
車の中に笑い声が響く。
二人の歳が離れていようとも。
そんな事は気にしません。
~fin~
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