1.  good-bye    

5/19
前へ
/536ページ
次へ
「ふぇ~~ん、クリスタぁ~」  となりの親友は、黙々と口に運んでいた朝食の手を休めて、ようやくあたしと目を合わせた。  彼女はクリスタ・ロードウェイ。  あたしの幼馴染で親友で、この部屋を一緒にシェアして、同じ大学に通っている。  それとも、モデルの『クリスタ』って言った方が、わかりやすいかしら。  191センチの長身の、黒人系の遺伝子が強く表れた容姿(スタイル)を持つクール・ビューティー。  このシーズン、人気急上昇中の新進デザイナー、ロマン・ナダルのポスターに起用されて、彼女の人気も急上昇中。マスコミ露出率も、軒並みアップしている。  それでも変わらず、あたしの親友。 「どう、話す気になったかい? 昨日からこの世の終わりみたいな顔してるぞ。どうせまたリックとケンカでもしたんだろ。  はいはい、今度のケンカの理由はなんだって?」  彼女はまるで今日のスケジュールを確認するような口調で、あたしを(いさ)める。  リックって云うのが、あたしのカレ……ううん、もうすぐ元カレになるオトコの名前。 「違うの、あたし決めたのよ。一大決心したんだから!」 「ふんふん。謝るんなら、あいつの機嫌のいい時にしなさいよ」 「そうね……って、違ーーうッ! 謝るんじゃないの、別れるのッ!」  クリスタの深緑色の瞳が、大きく見開かれる。  (しば)しの間。  TVでは、キャスターが次の話題の紹介に移る。 「別れるって、誰と?」 「だから、リックと!」  クリスタは左手でこめかみを押さえた。ついでに右手に持っていたフォークを置いた。 「テスが、リックと……かい?」 「ほ……他に、誰がいるの……」  彼女はマグカップに手を伸ばすと、コーヒーを飲みほした。 「――いや。確か、つい2日前に『あたしはリックと結婚したい』と言っていた女が、目の前にいるような気がするんだが……」  あたしは口を歪める。  間違いじゃありません。それは確かに、あたしです。 「ハイスクールのころからのくされ……いや、ラブラブの仲じゃないか。プロムでキング&クイーンに選ばれたときだって大喜びしてた。そーいやぁ、そのころから結婚するのしないの騒いでいたよーな……」  目を閉じ、うんうんと頷きながら、そんなこと思い出さないでよ~~。
/536ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加