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働き始めてから2か月後の6月某日、普段通り、売上金の回収に
向かった。午後5時あたりだっただろうか。
いつもは一銭も入っていない小銭受けがチャリンとなった。
百円硬貨が鳴らす金属音が、長く静かな通路に鳴り響く。
珍しいこともあるものだ、と受け皿を元に戻し、立ち上がろうとした
その時、・・・・・・
普段とは異質な雰囲気を覚え、何かの視線を感じた。何者であるかはわからないが、とても形容しがたいねっとりとしたなにか・・・。
心臓が脈打つ音が次第に大きくなる。勢いよく後ろを振り返る。
何もいない。
「考えすぎだよね・・・落ち着こう。」
佐々木は自分に言い聞かせた。そんなこともつかの間、
「ぐぅ○○がぁぎぃ○○が○ぁうえ○ぇ」
・・・
戦慄した。
人がおぼれた時のようなとぎれとぎれの呻きとノイズが合わさったような、人間では到底発音しようのない音。
あまりの衝撃に硬直してしまう。自販機の上の「そいつ」を確認したい、いや、確認せねばならないという一種の生存本能にも似た衝動に駆られた。
その時、ようやくその「音」の理由が理解できた。
顔がないのだ。
のっぺらぼうなんていう生易しいものではない。
少女を思わせる体躯をしたそれは、顔面に、潰されて穿たれた
ような穴が口をあけていた。
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