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厳かな扉の中にいたのは、お団子頭に銀縁眼鏡をした、某イギリスの魔法映画で主人公の先生を務めていた魔女にそっくりな容貌の女性だった。
アンティーク調のデスクに腰掛け、いくつもの書類に目を通している。背後にある、天井までの高さのある本棚には、びっしりと本が詰め込まれていた。それらを背に、応接用らしいソファセットが鎮座している。
「美浜さんね。初めまして。私は校長の坂木美冬と言います」
女性はそういって、眼鏡の奥からにこりと微笑んだ。思いがけず、チャーミングな笑顔だった。
「は、初めまして。今日からお世話になります、美浜愛です!」
愛は慌てて頭を下げる。
坂木は「よろしく」と微笑んで、ソファを進めてきた。緊張しつつ、進められるままにソファに座る。
それからは、坂木から直接学校の説明や寮の説明を聞く時間だった。
無機質なルールの並べられた資料に目を通しているうちに、愛の緊張はどこかへ消え去り、また新たな生活への期待が心の中を満たしていった。
一通り説明を終えると、坂木もどこかホッとしたように「はい、これで全てね」と息をはいた。
「ありがとうございます」
「わからないことがあったらいつでも連絡して。寮の電話は真子さんに繋がるようになっているから」
「はい」
愛が答えると、坂木はにこりと微笑んで、
「これで今年の生徒が全部揃って良かったわ。震災があってから、あなたともう一人、入学が遅れちゃってたの。その子も今日来るから、やっと全校生徒が揃うのよ。さっき道に迷って遅れるって電話があったんだけど、同学年の男の子でね」
……え。
嫌な予感がした。顔が引きつる。
坂木はそんな愛の様子には気づかないようで、散らばった書類をまとめつつ、言葉を紡いだ。
「今、真子さんが迎えに行っていて……。あ、来たみたいね」
扉をノックする音がする。
愛は絶望的な思いで、その扉を振り返った。
もしかして……。
「柏原翔くんをお連れしました」
真子の声がする。
「どうぞ」
扉がゆっくりと開く。まず、先ほども見た真子の姿が見える。そしてその奥に、少年が立っていた。
愛は、エベレストの頂上から突き落とされた感覚がした。
いや、エベレストなんて登った事ないんだけど。
少年も、中に愛の姿を認めた途端、目を丸くした。
ああ、今日は新たな始まりの最高の1日にしないといけないのに。
そこにいたのは、紛れも無い。
先ほどの、スカートめくり変態野郎だった。
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