第11章 あの日あの時

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緊張が解けたその様子を見て、翔はやっと柔らかく笑った。 「ごめんな」 「どうして謝ってるの?」 尋ねると、愛の足首に包帯をまき終えた翔は、見上げる角度で愛の目を覗き込んだ。 そのまっすぐな目線に、胸が高鳴る。 「ずっと黙ってた。金井先生が怪しいということ」 ああ。 それは、 「まさか担任がテロリストなんて、私が学園生活を『普通に』楽しむためには、できるだけ言いたくないって思ったんでしょ」 翔はそういうやつだ。 「お前がいなくなった時、もうダメだと思ったよ」 そう言う瞳が切ない。 そう言う瞳をさせてしまっている自分が苦しい。 「ごめん。もうこれ以上、私のために、誰も傷ついて欲しくないと思ったの」 答える。 翔は「分かってる」と頷いた。 「・・・・翔」 呟くように言う。 翔は「どうした」と優しく返した。 「私、暗証番号、思い出した」 翔が目を丸くする。 愛はうつむきながら、 「よく言われてたの。『あなたが生まれた日は大切だから、覚えておいてね』って」 「誕生日か? いや、それはあまりにも単純じゃーーー」 「違うよ」 顔を上げる。 翔と目を合わせる。 まっすぐで、強くて、暖かい瞳だ。 「翔、私の名前は『愛』なの。大切なのは、『愛』が生まれた日なの」 翔がハッとしたような表情になる。 愛は小さく頷いた。 「お母さんがお父さんに一目惚れしたのは、二人が警察学校の入学式を終えた次の日だよ」 公安の記録を調べればすぐに分かる。 翔は小さく頷いて、スマホを取り出した。 打っているメッセージの相手は、おそらく皆川だろう。
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