第11章 あの日あの時

8/8
前へ
/180ページ
次へ
父と母は、間違いなく、愛に託していたのだ。 自分たちが命をかけた、その証を。 「・・・私、結局こうやって守られてしまうね」 メッセージを打ち終わった翔に向かい、ほとんど独り言のように訴える。 翔はスマホから顔を上げ、再び愛を見つめた。 どうして私はこんなに、 あなたに守られてしまうのだろうか。 翔はしばらく沈黙した。 何を考えているのか、よく分からない、そのまっすぐな瞳。 やがて翔は、 すっと息を吸って、 その息を吐き出すのと同じくらい自然な調子で言った。 「俺は、お前のことが好きで、お前のことが大切で、お前を失いたくない。それだけじゃ、俺がお前に命をかける理由としては不十分か?」 瞳に色がつく。 困ったような、そんな色。 まるで、どうすればいいんだと、途方に暮れたような、そんな色。 そんな風に、私のことを見つめてくれるのは、 あなたしかいない。 守られてしまうばかりだけど、 私は何もできないけど、 それでもあなたがーーーあなたが、それが良いと言ってくれるのであれば。 愛は息を吸って、 吐くのと同時に、ふっと笑った。 それから、まっすぐに翔を見つめ、 静かに、言った。 「好きな人に大切にされて、それで、それだけじゃ足りないなんてそんなわがまま、私が言うって本気で思う?」 その言葉を聞いて翔は、 やっと安心したように、柔らかく笑ってくれたのだった。
/180ページ

最初のコメントを投稿しよう!

55人が本棚に入れています
本棚に追加