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「壊滅したのはバッド・デスの日本支部だってさ」
翔が言う。
夏休みも残りわずか。
いつもの非常階段の木陰で、二人並んで地面に座り、流れる風に涼む。
愛はいつかと同じように、購買部で買ったバニラアイスのカップをつついていた。
あのあと、翔から連絡を受けた皆川が公安を動かし、中東の某国の貸金庫から無事に証拠を持ち出した。
中には日本支部の内部情報が全て記録されており、潜伏先、連絡網、取引先、全ての情報が明るみになり、日本支部幹部は一斉検挙。当然のごとく金井も逮捕。今や日本は「未知のテロリストの一斉検挙! 日本にも潜んでいた危険な影!」とスリリングなニュースで持ちきりだった。
「まさかその裏にごくごく普通の男子高校生の活躍があったなんて、誰も思わないんだろうなあ」
アイスをチマチマと食べる。
涼しい風が体の中を通り抜けた。
「そんなこと、誰も思わなくて良いんだよ」
翔が答えた。
そうだね、と返す。
普通の高校生が、普通の高校生らしい学園生活を送れる。
みんながそれを疑わない世界であってほしい。
皆川は事後処理で忙しく、あれから学校に姿を現していない。
バッド・デスの日本支部が壊滅したということは、彼のここでの仕事は終わったということだ。きっとこのままフェードアウトだろう。
最後にちゃんとお礼を言いたかったな。
それだけが少し残念だ。
「でもまあ、あれだな」
翔が愛の隣でスポーツドリンクのボトルを傾けながら、
「壊滅したのはあくまでも日本支部であって、本部はまだ健在だ。まだ公安とバッド・デスの戦いが終わったわけではない」
「え、ちょっと待って」
ある絶望的な事実に気づいて、愛はさっと顔を上げる。
翔が怪訝そうに「どうした?」と尋ねる。
「本部がまだ健在ってことは、私、また狙われる可能性もあるってこと?」
「ああ。それか」
翔はなんでもないというように、
「まあ、可能性は無きにしも非ずかな」
「そんなあ」
思わず詠嘆の声が漏れる。
まさか。まだ続くのか。
そんな愛を見て、翔はニヤリと笑った。
その、メロアイスを思わせる爽やかな笑顔を、ムッとして睨み返す。
「何が面白いのよ」
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