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「……何しに来たのよ」
うつむいたまま尋ねる。泣いた顔を見られるのは屈辱だ。
「……陸上選手ばりのスピードで廊下をダッシュするやつとぶつかったら、不審に思って普通追いかけるだろ」
翔はぶっきらぼうに言った。
愛は無言で、うつむき続けた。
なんでこいつ、来たんだろう。
これからどうするつもりだろう。
しばらくして、愛は不意に肩に感じた温もりに驚いた。
翔が、自分のパーカーをかけてくれたのだとわかった。
「良い。大丈夫」
拒否しようとすると、「夜風の温度も分からないのかお前は」と、翔が呆れたように言った。
翔はそのまま、愛の隣に腰掛け口を開いた。
「俺、なんか眠れないから出て来たんだ。だから、お前は俺のこと気にしなくて良いぞ」
そっけないその言葉に込められた優しさを感じた途端、限界だった。
愛は再び、泣き崩れた。
肩を震わせ、両手に顔を埋め、ひたすらに、ひたすらに、涙をこぼし続けた。
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