第1章 始まりの朝

2/17
前へ
/180ページ
次へ
「大丈夫?」 優しい響きだった。 うっすら目を開ける。声を裏切らない、優しい顔がそこにあった。 優しい、だけで片付けるのは少し雑かもしれない。 目鼻が整っていて、瞳には少し外国人風の雰囲気がある。爽やかさの中に甘さがあり、夏のメロンアイスを想像させる。 髪の毛はふさふさの栗色。見るからに柔らかそうだ。  「終点だよ」 その言葉にやっと、愛は、自分が電車の座席に横になって眠りこけていたことに気づいた。 「あ……ごめんなさい」 答えて体を起こす。彼は少し心配そうに、「体調悪い?」と尋ねてきた。 「いや。大丈夫です。わざわざありがとう」 答えてにこりと笑うと、彼はふっと笑みを浮かべた。「そっか。よかった」 なんて罪作りな。 その笑顔に内心やられつつ、荷物棚にあげていた荷物を取るために手を伸ばした。彼はそんな愛に気づいたようで、素早く愛のボストンバックを取ってくれた。 この身長差、ざっと175センチくらいだろうか。 悪くない。 「ありがとう」 精一杯の笑顔を浮かべてバックを受け取る。 愛は起こしてくれた少年と、電車を下りた。他の乗客はもうとっくに姿を消している。
/180ページ

最初のコメントを投稿しよう!

55人が本棚に入れています
本棚に追加